第三章:
不思議な植物「12」
ボクは右胸のあたりにその数字の名札をつけた。
この場所でのボクの名前は『0』
それは特別な日にだけ。
それから、相変わらず身体もぺったんこ。今のところ不便は感じていない。
「そこの『0』のボク』」と誰かが呼ぶ。
なぜか嬉しくて笑顔で振り返ると、
初めて会う住人なのに、親しみとどこか懐かしささえ覚えた。
また数字の名札があるおかげでたくさんの友達もできた。
小川 恭子
「植物『12』の物語数秘カード」
情報屋の鳥『11』:「そう!この平野の向こうに小さな森があってね、その森にはキレサリの木という不思議な聖なる木があると、お婆さまから聞いたよ」
癒しの花『9』:「そう言えば、その木は森の住人を守っていると聞いたことがあるわ。嵐がきたら風を妨げる壁となり、病気になると木の樹液を差し出し..病が治る、お腹がすいたたモノには木に実っている果実を与えてくださるんですって」
繊細な住人『4』:「ただ….その木はどこに存在してるのかわからないと言われてる。またあの森に近づくのは危険とも言われてるよ」
不思議な植物 『12』:「…………..」
元気な住人『3』:「…今日のこの赤いドレス、とっても可愛いでしょ!イッツ、ゴージャス♪」
熟考なトラ猫『8』:「ボクは気が向かないな…お腹はすでに満たされている、病気もない元気だ、空気が澄んでいて空は綺麗なブルーなんだよ」
好奇心旺盛の住人『1』:「エネルギーは満タン!まずは行ってみないと始まらない。支度だ」
クールな住人 『7』:「そう…キレサリの木を見つけられなかったら迷子になって帰ってこれないらしい…。また、縁のないモノは途中で嵐や大雨に襲われるらしいと聞いたわ」
不思議な植物 『12』:「…………..」
調和な鳥『6』:「キレサリの木の存在は、たとえ目にしなくてもその森が聖地であることには間違いない。それを想像するだけでも幸せになれるの」
自由な飛行機『5』:「僕は次に行きたい場所が見つかった!」
元気な住人『3』: 「…赤のフリルをまとって、ワルツを踊るのよ。お姫様は森がぴったり似合うんだって」
不思議な植物 『12』:「…………..」
優しいウサギの『2』:「ママがね、怪我をしたんだ…キレサリの木の樹液が欲しい」
トラ猫『8』:「まず、行くにあたって森の地図が必要だね。当面の食料と就寝用の枕と、早速準備できるのかな?」
直感の住人『10』:「未知なる宇宙は待ってても来てくれやしないよ、こちらから尋ねるのさ」
Toshio Arimoto
「A Celestial Music」
Toshio Arimoto
「有本利夫展 光と色:思い出を遊ぶ人」
パレードが終わってもまだおしゃべりが止まない。
果てしなく会話が続く。
ボクは相槌をうちながら、時折笑ったり、驚いたり。
そして不思議な植物『12』の葉の中でうずくまっていた。
時々、ボクの顔をなぜたり、飛んでくる小さい虫を払ってくれたりと、
不思議な植物は心地よく優しい。
どのくらい経った頃だろう、突然雷が鳴り大雨が降ってきた。
住人たちは皆あちこちと退散し、それぞれの場所へ帰って行く。
不思議な植物はすぐに、身体の一部である葉を差し出しボクの傘となってくれた。
雨と同時に霧もどんどん広がってきて、
みるみるうちに辺りはすっかり白く覆われていた。
状況が掴めないまま、ぼんやりとしていると次は、
バキバキと音が響きわたり地面がぐらぐらと揺れている。
ボクは思わず葉にしっかりとぐるりと巻きつく。
ボクのいる場所が、どんどんと高くなっているのだ。
「空がとても近い!」
おそるおそる見下ろすと、不思議な植物は、大きな、大きな木になっていた。
小川 恭子
「ぺったんこ人形」
小川 恭子
「ぺったんこ人形」
「ボク オイシクテ ジュクシテイル カジュツダヨ。ホラ オタべ」
いくつもボクに食べさせてくれる。
「モット オタべ エンリョ シナイデ モット オタべ」
大きな木が差し出すモノは、全てが優しく暖かい。
目には映らないのだけれど、それが透明の光となってボクの心に染みていく。
「ボク! カエルマエニ コノ ジュエキ ヲ ノムンダヨ 」
ボクは一気にその樹液を飲み干した。
「苦くて、苦い。そうだ!奇妙なるお茶会で飲んだあの時の味だ! 」
ペッタンコだった身体がみるみるうちに元の身体に戻っていく。
それを見届け大きな木は、そっとボクを地面に降ろしてくれた。
するとそれと同時に、白い霧と共に大きな木も一瞬にして姿を消した。
見渡すと、辺りは何事もなかったようにシーンと静まりかえっていた。
午前0時1分
ベットの中で、ボクは呟いた。
「キミはキレサリの木だったんだね…」